双極性感情障害とは?躁うつの波に向き合うために知っておきたいこと【保存版】
目次
はじめに
「気分が異常に高ぶったかと思えば、次は突然何もやる気が起きない──」。そんな感情の乱高下に悩む人がいます。それは一時的な気分の波ではなく、**双極性感情障害(そうきょくせいかんじょうしょうがい)**という精神疾患の可能性があります。
かつて「躁うつ病」と呼ばれたこの病気は、気分が高揚する“躁状態”と、深く沈む“うつ状態”を周期的に繰り返すのが特徴です。患者数は日本に約30万人とも言われており、正しく理解し、適切な治療を受けることで十分に社会生活を送ることが可能です。
本記事では、双極性感情障害の症状、原因、診断、治療、セルフケア、家族の支援、創造性や社会復帰の可能性まで、深く丁寧に解説していきます。
双極性感情障害とは?
双極性感情障害とは、感情のコントロールに関わる脳の機能に不調が生じ、極端な気分の高まりと落ち込みを繰り返す病気です。正常な気分の範囲を超えて感情が揺れるため、本人も周囲も大きな負担を感じます。
躁(そう)状態とは?
躁状態とは、エネルギーが過剰になり、活動的すぎて自分を制御できなくなる状態です。以下のような症状が見られます。
異常にテンションが高くなり、自信過剰になる
おしゃべりが止まらず、話が飛びすぎて支離滅裂になる
2〜3時間の睡眠でも活動的で疲れを感じない
衝動買い、無謀な投資、性的逸脱行動などを起こす
他人の助言を無視し、トラブルに発展しやすい
本人は絶好調と感じているため、病気の自覚はほとんどありません。しかし、社会的信用を失ったり、大きな借金を抱えたりと、人生を揺るがすような影響を及ぼす可能性があります。
うつ状態とは?
一方のうつ状態は、気分が沈み込み、思考も行動も重たく鈍る状態です。以下のような症状が現れます。
意欲や興味の喪失(何も楽しいと感じない)
食欲や睡眠の異常(過食/拒食、不眠/過眠)
極端な疲労感や自己否定、罪悪感
自殺念慮(死にたいと考えてしまう)
躁状態の反動で訪れることが多く、その落差の激しさに苦しむ方が多いです。特に双極Ⅱ型ではこのうつ状態が長引くため、「うつ病と間違われやすい」という特徴もあります。
双極性障害の種類
双極性感情障害には主に2つのタイプがあります。
双極Ⅰ型障害
明確な躁状態とうつ状態の両方を経験
躁が極端で、社会的トラブルや入院が必要になることも
うつ状態との落差が大きく、本人も周囲も苦しむ
双極Ⅱ型障害
軽躁状態(軽度のハイ)とうつ状態の反復
軽躁は一見「調子がいい」に見えるため見逃されやすい
うつ状態が長く重いため、慢性的な不調と誤解されがち
適切な診断のためには、躁または軽躁のエピソードを正確に把握することがカギとなります。
原因は何か?脳とストレスの関係
双極性感情障害の原因は完全には解明されていませんが、以下の要因が影響するとされています。
脳内神経伝達物質の異常
感情をコントロールする神経伝達物質(セロトニン、ドーパミンなど)の働きが乱れることで、気分が急激に高まったり、落ち込んだりするようになります。
遺伝的要因
血縁者に同じ障害を持つ方がいる場合、発症リスクが高くなります。ただし、遺伝=発症ではなく、あくまで素因の一つです。
ストレス・環境要因
過労、離婚、転職、出産などのライフイベントが発症の引き金になることがあります。とくに睡眠の乱れや生活習慣の乱れは、感情の波を激しくする大きな要因です。
診断と治療の方法
診断のポイント
診断には、躁または軽躁状態の有無が重要です。うつ症状のみが目立つ場合、最初は「うつ病」と誤診されることが多いため、過去の気分や行動を主治医に正確に伝えることが大切です。
薬物療法
気分安定薬:リチウム、ラモトリギンなど
抗精神病薬:クエチアピン、オランザピンなど
抗うつ薬:うつ症状が強い場合に補助的に用いるが、単独使用は躁転リスクあり
治療の基本は、「波を小さくし、安定した状態を保つこと」です。
心理療法・生活習慣の改善
認知行動療法(CBT):気分の波を客観視し、自分の行動を整える
睡眠、食事、運動などの生活リズムを整える
禁酒・刺激物の制限も効果的
本人にできるセルフケア
気分日記やアプリで感情の波を記録する
服薬を自己判断でやめない
調子が良すぎるときこそ注意
支援ネットワーク(医師・家族・仲間)を持つ
孤独と無自覚が、再発の最大要因です。日頃から“見守ってくれる人”とつながっておくことが重要です。
家族や周囲にできるサポート
病気の理解を深め、否定せずに見守る
状態が良いときに「危機対応のルール」を決めておく
通院・服薬の継続を穏やかに支援する
感情的にならず、共感と距離のバランスを意識する
家族が感情的に振り回されると、関係が破綻する恐れもあるため、必要に応じて家族会やカウンセリングを活用しましょう。
双極性障害と創造性・才能との関係
実は、双極性感情障害の方には創造性が高い人が多いとされ、歴史上の偉人にもこの病を抱えていた人物がいます。
ゴッホ(画家)
芥川龍之介(作家)
チャーチル(政治家)
情熱的でエネルギッシュな躁状態の時期に、独創的な発想が生まれやすいとされる反面、うつ状態の辛さは計り知れません。
この特性を病気と断定せず、「付き合い方を学ぶ」というスタンスが、社会として求められています。
社会復帰・就労の可能性について
双極性障害は適切な治療と自己理解があれば、就労や社会参加も十分に可能です。
無理せず、波の少ない職場環境を選ぶ
就労支援(就労移行支援事業所)を活用する
在宅勤務・短時間勤務など柔軟な働き方を検討
「波を見極め、先回りして対策する」ことが安定のコツです。失敗を繰り返しても、あきらめずにチャレンジできる環境が整いつつあります。
まとめ:波と共に生きるという選択
双極性感情障害は、誰でもなりうる病気であり、本人の意志の問題ではありません。しかし、正しい理解と治療、支援の手があれば、十分に回復可能です。
本人が病気と上手に付き合い、周囲も温かく見守ることで、豊かで充実した人生を送ることができます。